一般に、ワクチンの種類は
などに分けられます。
ウイルスや細菌などの病原体を弱め、病気を起こさないようにしたものです。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じように免疫がつくことが期待できます。ワクチンの成分自体が「感染」をおこします。
感染する力をなくした(不活化という)病原体を用いるワクチンです。生ワクチンと違い感染しませんが、免疫の付き方は少し弱くなります。
病原体の成分・部品である「タンパク質」を投与するものです。
これらのワクチンでは、ウイルスの部品にあたるタンパク質の設計図(遺伝情報)や、遺伝情報をのせた運び屋(ベクター)を投与します。その設計図をもとに、ヒトの体の中(細胞)でウイルスのタンパク質の一部がつくられ、さらに、ヒトの細胞が自ら作ったそのタンパク質に対する免疫がつきます。
*ベクター:ワクチンに必要な遺伝情報などをヒトの細胞に運ぶために、運搬役として使われる、ヒトに対して病原性のないウイルスなどのこと。(例:病原性のないアデノウイルス)
新型コロナウイルスワクチンには以下のものがあります
mRNAワクチン:ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチン
ベクターワクチン:オックスフォード・アストラゼネカ社ワクチン、ジョンソン・エンド・ジョンソン(ヤンセンファーマ社)ワクチン、ロシア・スプートニクVワクチン等
組換えタンパクワクチン:ノババックス社ワクチン
VLPワクチン:メディカゴ社ワクチン
ワクチンの種類 ©こびナビ
新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、ファイザー・ビオンテック社製、モデルナ社製いずれも次の3つの成分からできています。
1. mRNA本体
2. mRNAを包む脂(脂質ナノ粒子):脂質やポリエチレングリコール(PEG)など。RNAを安定化・保護しつつ細胞内まで届ける役目を担う。
3. 塩類と糖類、緩衝剤
新しく開発されたワクチンというと、未知の成分がたくさん入っているように思うかも知れませんが、実は大きく分けてこの3つの成分でできています。これらの成分は、どれもこれまでにヒトの体に投与された経験があるものです。
mRNAワクチンには、免疫反応をより良く起こすための成分(アジュバント)や、水銀を含む保存剤は一切含まれていません。
また、主成分の核酸であるRNAは、実際の細胞を使わずに工場内で合成(in vitro の合成、IVTという)されているため、細胞の成分等が混入することも原理的にあり得ません。
3. N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMra2035343
もともとヒトの細胞の中にはたくさんのmRNAがあり、これが私たちの遺伝情報がしまってある「核」の中には入ってこられないようにする仕組みがあります。なので、ワクチンを使ってmRNAを注射しても、基本的にヒトの遺伝子(染色体・DNA)がある細胞の核の中に入り込むことはできません。また、ヒトの細胞にはワクチンのRNAをDNAに変換(逆転写という)したり、そのDNAをDNAでできた染色体に組み込んだりするための酵素(インテグラーゼという)もないため、ヒトの遺伝子(染色体)に変化を起こすことはありません1)。
遺伝子組換え技術とは、ある生物の遺伝子の一部を、他の生物の遺伝子に組み込むことで、新しい性質を与える技術のことです。上記の通り、今回の mRNA ワクチンが遺伝子に組み込まれるということはなく、ワクチンを作用させることについて、遺伝子組換え技術というものではありません。
ワクチンの主成分である mRNA は細胞の中のタンパク質を合成する工場(リボソーム)で使われたあと、すぐに分解されてしまいます。さらに mRNA を元につくられたタンパク質も数週間以内には分解されるため、mRNAワクチンの成分が体の中に長く残ることはないと考えられています。
ファイザー・ビオンテック社は、mRNAワクチンが接種後に体内でどのような分布をするか調べるため、ラットを使った実験を実施しています1)。ラットにmRNAワクチンを接種して48時間後まで観察した結果、mRNAワクチン の成分のほとんどは投与部位にとどまっていましたが、一部は肝臓にも分布していました。接種されたワクチンのうち、肝臓へは最大18%が分布していましたが、卵巣に分布したのは全体の0.1%以下でした。他の臓器でもワクチン成分はわずかに移行しており、脾臓(1.0%以下)や副腎(0.11%以下)でも確認されていますが、これらは肝臓と比べると微量です。これらの結果から、mRNAワクチンは卵巣にわずかに分布することはありえますが、長期間に「蓄積する」とは言えません。これまでの臨床試験や実用化後のデータからも、mRNAワクチンが卵巣に蓄積して生殖機能に影響を与えるとは考えられていません。
これまで数年~十数年以上かかっていたワクチンの開発が、今回は1年以内で行われたことに不安を覚える方も多くいると思いますが、今回のワクチンが開発から承認がこれほど速く進んだ理由はいくつもあります1-3)。
理由1)2002-2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年頃から地域的に流行する中東呼吸器症候群(MERS)の原因であるコロナウイルスのスパイクタンパク質は、今回の新型コロナウイルスにとてもよく似ています。このウイルスに関する研究が続けられていたため、今回のウイルスでも、どこをワクチンの標的にすれば良いのかすぐに判明しました。
理由2)遺伝子を調べる技術革新や、mRNAワクチンに関する長年の研究により、遺伝子配列がわかればすぐにワクチンを設計できる技術がありました。
理由3)いくつかの段階の動物実験や臨床試験を同時並行で行い、効率よく研究を進めることができたこと。
理由4)世界中で大きな流行(パンデミック)になったことにより大規模な臨床試験の対象となる人がたくさん確保できたこと。
理由5)米国政府などから、ワクチン開発のために大量の資金が投入されたこと。
理由6)最終的な臨床試験を終える前から可能な箇所の審査を始め、結果が出次第承認の可否を判定できるように準備をしていました。
このように、様々な工夫がされていたことが、短期間で開発がされた理由です。
これだけ早く承認されたので、安全性の評価が甘いのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、mRNAワクチンの効果と安全性を評価する大規模な臨床試験(ファイザー・ビオンテック社は43,448人、モデルナ社は30,420人)は、従来のワクチンと比べても、規模が大きいものでした4,5)。また、FDAの承認審査はYouTubeで生配信されるなど、有効性や安全性の検証は透明性の高い方法で行われました。世界では既に何十億回の接種がされており、現在も有効性および安全性の観察が続いています。
日本で承認されたファイザー・ビオンテック社ワクチン(商品名「コミナティ筋注」)の臨床試験1)と、モデルナ社ワクチンの臨床試験2)では、症状が出る新型コロナウイルスの感染症を抑える効果(発症予防効果)は、約95%ととても高いことがわかっています。これは、ワクチンを受けた人は、ワクチンを受けなかった人と比べて、発症する確率が95%減るということを意味します(図参照)。また、ファイザー・ビオンテック社のワクチンを受けた約60万人と、受けていない約60万人を比べたイスラエルの大規模な研究でも、ワクチン接種により発症する人が94%減り、重症化する人も92%減るという非常に高い有効性が報告されています3)。更に、アメリカで実際にワクチンが接種され始めてから行われた研究では、無症状のものも含めた感染そのものを予防する効果が91%あることが確認されています4)。このように、mRNAワクチンは従来のウイルス(武漢株)に対して、発症や重症化を予防するだけでなく、人から人への感染を防ぎ、流行を抑える効果が確認されていました。
B.1.617.2変異ウイルス(デルタ)については、mRNAワクチンは若干効果が減弱することがわかっています。イギリスでファイザー・ビオンテック社ワクチンの有効性を調べた研究では、デルタに対する発症予防効果が88.0%であったと報告されています5)。更に、無症状のものも含めた感染そのものを予防する効果は66%にまで低下することが確認されています4)。
11月WHOに「懸念される変異体(VOC)」に指定されたB.1.1.529変異ウイルス(オミクロン)に対するワクチンの効果に関しては、2022年1月現在研究が続けられている段階です。数々の実験室の研究で、今までの変異ウイルスに比べてワクチンを接種した人の中和抗体の効果が低下することが報告されています。またイギリスからの報告では、mRNAワクチン2回接種後のオミクロンに対する発症予防効果は他の変異ウイルスに比べて低下することが推測されています。しかし、3回目の接種を行うことで、オミクロンに対しても十分な効果が得られることが確認されています。(「Q3-6. オミクロン変異ウイルスについて詳しく教えて下さい。mRNAワクチンはオミクロンにも効果がありますか?」の項目参照)。
複数の研究で、2回目を接種してから数か月間経過すると、発症予防効果が徐々に低下してくることが報告されています6,7,8)。これに加えて、デルタやオミクロンといった変異ウイルスの流行によりワクチンの効果が更に低下したため、CDCは3回目のワクチン接種を開始しました9)。日本においても、2021年12月1日より3回目の接種が開始されています2回目の接種完了から原則8か月、年齢や時期によっては6~7か月以上間隔を開けて行う、3回目の接種が2021年12月1日に開始されました。3回目のワクチン接種により重症化を予防したり、入院・死亡を防ぐなど、減弱したワクチンの効果が再び高められることがわかっています(「Q10-2. 3回目の接種は受けた方が良いのでしょうか?」の項目参照)。
日本で主に使用されているファイザー・ビオンテック社ワクチン及びモデルナ社ワクチンについては、全ての2022年1月現在世界で流行しているデルタやオミクロン等の変異ウイルスに対して重症化を防ぐ効果が確認されています。
ファイザー・ビオンテック社ワクチンの第2/3相臨床試験では、ワクチン接種から約2か月後までを調べた結果、重症となった人は、ワクチンを受けたグループでは1人であったのに対し、プラセボ(偽薬)のグループでは9人でした 1)。なお、ワクチンのグループで重症となった人も入院までは必要ない状態でした2)。その後、同じ臨床試験の被験者をワクチン接種から約6か月後まで観察した結果、1回目の接種後、重症となった人はワクチンを接種したグループでは1人、プラセボのグループでは30人でした(有効性96.7%)3)。イスラエルで約60万人のワクチン接種者を解析した研究から、2回目の接種から7日以降では、COVID-19の重症感染を92%防ぐ効果が確認されました4)。
モデルナ社の mRNAワクチンに関しても、大規模な臨床試験において、プラセボのグループで重症化した人が30人いましたが、ワクチンを受けたグループで重症となった人は1人もおらず、ワクチンによって重症化することも防げたことが示されています5)。
デルタ変異ウイルスについても、mRNAワクチンは重症感染を予防する高い効果が維持されていることがわかっています。具体的には、イギリスでファイザー・ビオンテック社ワクチンの有効性を調べた研究では、重症感染を予防する効果が96.0%と推定されました6)。
オミクロンに対する重症感染予防効果は2022年1月現在研究が続けられている段階ですが、発症予防効果に比べ入院抑制効果は高く保たれていると報告されています(「Q3-6. オミクロン変異ウイルスについて詳しく教えて下さい。mRNAワクチンはオミクロンにも効果がありますか?」の項目参照)。
日本で主に使用されているmRNAワクチンは、従来の新型コロナウイルスへの無症状の感染を防ぎ、他の人への感染を減らすことが、複数の研究で報告されています1)。モデルナ社のワクチンの臨床試験では、1回目と2回目の接種前に一部の人にPCR検査を実施していて、2回目の接種の時に、無症状でPCRが陽性だった人がワクチン群の方が少なかった(ワクチン群14人 [0.1%] vs. プラセボ群38人 [0.3%])ことが分かっています2)。ファイザー・ビオンテック社ワクチンに関しては、イスラエルで約60万人のワクチン接種者を解析した研究から、2回目の接種から7日以降では、無症状の感染を90%防ぐ効果が示唆されています3)。さらに、米国CDCの研究から、ファイザー・ビオンテック社およびモデルナ社のmRNAワクチンの接種によって、2回目のワクチン接種から14日以降では、無症状感染を含む90%の感染を防ぐ効果が報告されました4)。
ワクチン接種を完了した人が感染してしまった場合でも(「ブレイクスルー感染」と呼ばれています)、その人が他の人にうつす可能性は低くなることも報告されています。デルタ変異ウイルス以前の研究では、ワクチンを受けた方は、新型コロナウイルスに感染しても、検査した時に測定されるウイルスの量が少なく5)、またイギリスの研究では、ワクチンを1回でも接種した人が感染した場合、接種していない人よりも、同居人に感染をうつす可能性が下がることが報告されています6)。
デルタ変異ウイルスに対しても、ワクチンが他の人への感染を予防することが報告されています。イギリスでワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染した人の接触者を調べた研究では、ワクチンの接触者への伝播を予防する効果が認められています。ただしその効果は、アルファよりも低く、時間が経過するごとに低くなることが報告されています7)。アメリカの研究では、無症状の感染を含む全ての感染を予防する効果は、デルタが流行する前は91%であったのが、デルタが流行してからは66%に低下したことが報告されています8)。
2022年1月現在、オミクロン変異ウイルスについては、ワクチン2回接種だけだと無症状の感染までを防ぐ効果は低いと考えられています。3回接種によってどの程度無症状の感染を防ぐことができるかについては、現在研究が続けられています。他の人へうつすことを予防する効果に関しても、まだ明らかではありませんが、ワクチンを接種している人が感染した場合の方が、ワクチン未接種者が感染した場合に比べ同居人に感染させるリスクが低いことを示唆する報告があります9)。
ワクチンを受けた後どのくらいの期間、免疫(B細胞による抗体の担う液性免疫やT細胞による細胞性免疫)が保たれるのかはまだはっきりとは分かっていません。モデルナ社ワクチンは、少なくとも6か月は中和抗体価が高いレベルで維持され1)、ファイザー・ビオンテック社のワクチンでは、接種後6か月時点(2021年3月までのデータ)でも91.3%の発症予防効果および96.7%の重症化予防効果が保たれていたことが報告されました2)。ファイザー・ビオンテック社のワクチンを接種した方を調べた研究では、長期にわたって抗体を作り続ける細胞(長期生存形質細胞)が骨髄にいることが報告され、より長期の免疫を獲得する人がいる可能性が示唆されています3)。また免疫は、中和抗体の量だけでなく、T細胞による感染細胞への直接的な作用なども関与しているため、抗体価が下がったから免疫がなくなってしまった、とも言えないことも考慮に入れる必要があります。
しかしながら、ワクチン2回目接種直後と比較して、時間経過とともに血中の抗体価が徐々に低下し、感染予防効果・発症予防効果が低下していることもわかってきています。具体的には2021年前半以降デルタへの置き換わりが進んだ米国やカタール、英国などにおいて、ワクチンの感染予防効果が低下したことが報告されています4-7) 。しかしワクチン接種による発症予防効果が減弱していたとしても、高い重症感染予防効果が確認されており、ワクチン接種はデルタに対して引き続き有効であると考えられています。
米国 CDC は、こうしたことを受けて、高い予防効果を維持するために2回目の接種から8か月以降に、3回目の接種(ブースター接種といいます)を、2021年9月末に開始しました8)。なお米国では2021年8月から既に、最初のワクチン接種では十分な免疫ができにくい中等度から重度の免疫不全の方に3回目の追加接種が開始されています。詳しくは3回目接種に関する項目をご覧下さい。日本でも3回目のワクチン接種が、2回目接種後8か月以上経過した人を対象として開始されました。
2021年11月に報告されて以降各国に広がり日本でも2021年末以降市中感染の拡大が確認されているオミクロン変異ウイルスについては、特に2回目接種後長期間経過した人でデルタよりも大きくワクチン効果が低下することが確認されています。詳しくはオミクロンに関する項目をご覧下さい。
デルタはインドで2020年末に見つかり、今では世界中で確認されている変異ウイルスです。様々な研究から、デルタの感染伝播性(人から人へのうつりやすさ)は従来のウイルスより大幅に高まっていると推定されています1)。この仕組みはまだ分かっていないことも多いですが、従来のウイルスに比べて、感染者からのウイルスの排出量が多く、感染してからウイルスを排出するまでの期間が短いことが関与している可能性があります2)。
カナダやスコットランドの報告では、従来のウイルスに比べて重症化するリスクや入院するリスクが高いことが報告されています1)。
デルタに対するワクチンの効果については、複数の研究で発症予防効果が若干減弱していることが分かっています。例えば、英国の研究ではファイザー・ビオンテック社ワクチンを2回接種した後の発症予防効果は、アルファに対しては93.7%であったのに対し、デルタに対しては88.0%に低下したことが報告されています3)。また、米国やカタールにおいて、ワクチンの感染予防効果が低下したことも報告されています4-6) 。 しかしワクチン接種による感染予防効果や発症予防効果が減弱したとしても、依然として高い重症感染予防効果が確認されており、デルタに対してもワクチンの接種は引き続き有効であると考えられています1)。
デルタのような変異ウイルスから自分を守るためには、ワクチン接種はますます重要です。一方で、ワクチン接種を完了した方であっても、感染してしまう可能性はあるため、感染拡大傾向にある間はこれまで通り、3密の回避、マスクの着用、距離をとるなどの感染対策が重要です。
オミクロン変異ウイルスは、WHOによって2021年11月26日に「懸念される変異体(Variant of Concern)」に指定されたウイルスです1)。これまでに見つかった変異ウイルスに比べてスパイクタンパク質の部位に約30箇所と数多くの変異があることが特徴です。2021年11月に南アフリカで最初に検出されましたが、元々いつどこで生まれたのかは不明です。2022年2月現在、日本を含む世界中で新規症例の多くがオミクロンによるものです。
オミクロンの ①伝播性(人から人へどれぐらいうつりやすいか)、②病毒性(症状のある感染や、重症な感染をどれぐらい起こしやすいか)、③免疫逃避性(ワクチンを接種した人や、一度感染した人がどれくらい感染しやすいか)については、多くの国で研究が行われており、少しずつ明らかになってきました。
まず、オミクロンはデルタよりも伝播性が高い(人から人へうつりやすい)と推測されています。例えば、南アフリカからの速報では、オミクロンはデルタに比べて伝播性が高いと報告されています2)。またイギリスの研究では、感染者が家庭内で感染を広げる確率は、デルタ(10.1%)よりもオミクロン(13.6%)の方が高いことが報告されています3)。しかし、オミクロンの伝播性を知るためには、他の変異ウイルス(主にデルタ)に比べてどれだけ感染の広がりが速いかだけでなく、免疫逃避(ワクチンを接種した人や、一度感染した人がどれだけ感染しやすいか)や世代時間(ある人が感染してから次の人に感染させるまでの期間)の影響も考慮する必要があるため、正確に推定することが難しいのが現状です。
病毒性(重症化のしやすさ)に関しては、「オミクロンはデルタよりも入院するリスクが低い」という報告が複数あります4-7)。イギリスの研究では、オミクロンはデルタに比べて、救急外来の受診ないし入院が必要になるリスクは約半分であり、入院が必要になるリスクは約1/3だったことが報告されています4)。他にも、米国の報告では、オミクロンはデルタに比べて入院リスクは約半分、集中治療入室リスクは約26%、死亡するリスクは約9%と推計されています7)。しかし、オミクロンの病毒性がデルタに比べてどれだけ低下しているのかを知るためには、感染者の年齢や基礎疾患、既感染者の割合、ワクチンの接種歴、接種してからの期間などを考慮して比べる必要があり、今後のデータの蓄積を待つ必要があります。
免疫逃避(ワクチンの効果・再感染のリスク)に関しては、複数の実験室の研究で、抗体療法やワクチン接種による中和抗体が、オミクロンに対して効きにくくなっていることが報告されています8-10)。また臨床研究でも、mRNAワクチンのオミクロンに対する発症予防効果は、デルタに比べて低下することが報告されています。これに加えて、ワクチンの効果は時間とともに低下していきますが、ブースター接種後には、発症予防効果が6割以上に上がることが報告されています4,11,12)。重症感染を予防する効果については、mRNAワクチンやアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンを接種して6か月以降経過すると、入院を防ぐ効果が約44%にまで低下するものの、ブースター接種後には8割以上に上がることが報告されています12)。
数万人規模の臨床試験と実地の投与後の検討から、mRNAワクチンは安全性の高いワクチンであることが分かっています。米国の臨床試験では、以下(図参照)のような副反応が確認されています。これらの反応は免疫反応がしっかりと起こっていることを示す症状でもあり(ただし、副反応がなかったからといって免疫がつかないわけではありません)、特に2回目の接種後や比較的若い人に多く現れます。多くの場合、 接種して3日以内に症状が出て、数日以内に治まります。 症状がつらいときは解熱剤/痛み止め(市販のものでも可)を使用しても問題ありません。 もし熱が出ても必要に応じて休めるように計画しましょう。
これらの副反応以外には、アナフィラキシー(Q4-5)、遅発性の皮膚の炎症/コビッドアーム(Q4-6)、心筋炎や心膜炎(Q4-10)が確認されています。
ワクチンでは、スパイクタンパク質というウイルスの一部分しか作られないので、ワクチンの成分によって新型コロナウイルスに感染することは原理的にありえません。
臨床試験で報告されたファイザー社ワクチン接種後、2回目接種後の副反応の頻度
日本国内では2021年2月14日にファイザー社ワクチン「コミナティ筋注」が承認され、医療従事者などへの先行接種が開始されました。この先行接種された約2万人の医療従事者などを対象とした重点的調査の結果、注射したところの痛みが出た人の割合は91%、倦怠感が69%、疼痛が90%、発熱(37.5℃以上)が38%でした。ほとんどの方は解熱鎮痛剤などの内服なしまたは症状に応じて内服することで、日常生活には支障をきたしませんでした。COVID−19ワクチンモデルナ筋注の添付文書によりますと、日本人200例(ワクチンを打った人:150人、偽薬(プラセボ)として生理食塩水を打った人:50人)を対象に調査が行われ、2回目の接種後の注射したところの痛みが出た人の割合は85%、疲労が63%、筋肉痛が50%、頭痛が48%、発熱(38℃以上)が40%でした。副反応の大部分は、接種後1~2日以内に発現し、持続期間の中央値は1~3日でした。
これらの症状は、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったときの症状と似ています。
第一に理解する必要があることとして、風邪をひいた時に出る熱は、一般にウイルス自体が引き起こすものではなく、免疫細胞が分泌する物質(サイトカインなどといいます)によって起こります。これは、平熱の37℃よりも、40℃近い温度の方が、ウイルスを排除するために免疫システムが働くのに有利だからではないかと考えられます。
このため、病原体がからだに侵入したあと、最初期に出会う免疫細胞から色々な物質が分泌されます(からだ全体に警報が発令されるようなイメージです)。これが、脳にある体温を調節する部分に働きかけて、からだの設定温度を平熱から、38-40℃に変更しなおします。これによって体温が上がって、免疫系が病原体と有利に戦うことができるようになります。この仕組みと同じことが、ワクチン接種後にも起こっていると考えられています。
局所の副反応としての接種部位の痛みや腫れなどについても、免疫が活発に働いている状態(炎症がおきている)を示しています。
ですから、よく起こる副反応として知られているものは、ワクチンの本来の働き—免疫系に「練習試合をさせる」ことがきちんと起こっていることを示していると言えるでしょう。
ただし、これが起こらなかったからといってワクチンが効いていないということではありません。
一般的に、ワクチンの副反応(ワクチンにおける副作用のこと)は、生ワクチン以外ほとんどが接種をしてから6週間以内に起こることが知られています1)。
mRNAワクチンが、原理的に遺伝子に組み込まれないこと、比較的短時間でその成分が分解され、ワクチンによってできる蛋白質も長期に体に残らないこと等を考えると、長期的な副反応の可能性は考えにくく、もし起こったとしても非常に稀であろうと考えられます。
mRNAワクチンの治験で最初の患者が組み入れられてから既に1年半以上が経過していますが、これまでにワクチン接種から半年以上経過してから新たに生じるような副反応は報告されていません。
長期的な副反応については、世界中で厳重な監視がされており、今後も評価が続けられます。
アナフィラキシーとは、皮膚・粘膜、肺、消化器、血管・心臓など、2つ以上の臓器にアレルギー症状が出ることです。例えば、じんましん、咳、息苦しさ、口や顔の腫れ、喉のイガイガ、吐き気、血圧の低下、などの症状があります。いろいろな薬や食べ物、虫刺され等でも、アレルギーやアナフィラキシーを起こす可能性があります。頻度としては、アメリカでは、ファイザー・ビオンテック社ワクチン100万回投与につき4.7回、モデルナ社ワクチン100万回投与につき2.5回と報告されています1)。これはインフルエンザのワクチンでのアナフィラキシーの頻度(100万人に1.4人)よりやや多いと言えますが、他の薬に比べて特別多いというわけではありません。例えば、抗菌薬(抗生剤)では、約5000人に1人(100万人に200人)アナフィラキシーが起きる事があります。
なお、日本ではmRNAワクチン接種後のアナフィラキシーの頻度が多いのではないかという報道がなされました。しかし、ワクチンの安全性評価に用いられるブライトン分類2)に基づいて評価し直すと半分以上は定義を満たさなかったこと、米国でも医療従事者は非医療従事者よりも頻度が多いとの報告もある3)ことから、日本で特別なことが起きているわけではないと考えられます。実際に、広く接種が進んできて、現在では上記とほとんど変わらない頻度になっています。
アナフィラキシーが起きた場合は、アドレナリン(エピネフリン)という薬をすぐに筋肉注射するという確立した治療があります。アナフィラキシーは比較的若い人に多く、以前に別のものでアレルギーを起こしたことのある人が約8割でした。食べ物など、今回のワクチン以外のものにアナフィラキシーを起こしたことがある方は注意が必要で、接種後30分は接種会場で様子をみることが大切です4)。30分以降でも、全身の蕁麻疹だけではなく、息苦しい、顔が腫れる、などの急速に進行するアナフィラキシーを示唆する症状が出た場合は、救急車を呼びましょう。
mRNAワクチン接種後、数日後から1週間後くらいに遅れて生じる接種した腕のかゆみや痛み、腫れや熱感、赤みを伴う遅発性の局所反応が報告されており、COVIDアーム(またはモデルナアーム)と呼ばれています1,2)。この反応は、T細胞という免疫細胞が反応することにより起こる免疫反応・炎症であると考えられています。
ファイザー ・ビオンテック社ワクチンでも起こりますが、多くがモデルナ社のワクチンで報告されています3)。
頻度は低く(モデルナ社ワクチンの第3相臨床試験では1回目の接種後0.8%、2回目の接種後0.2%4)。日本の報告ではモデルナ接種1回目接種8日目以降も発赤とかゆみが続く症例が3-4%5))、不快であること以外は健康に害はなく自然によくなります。1回目接種後にこのような遅発性の局所反応が出た場合でも、基本的には2回目を受けてもよいとされています。
発疹が痒い場合は氷などでその部位を冷やす、抗ヒスタミン薬のかゆみ止めやステロイドの軟膏を塗る、痛みが酷いときにはアセトアミノフェンやロキソニン、イブプロフェン(非ステロイド性抗炎症薬)の内服が検討できます1)。
症状がひどい、または数日経過しても軽快しない場合は皮膚科を受診してください。
アメリカや欧州連合にはワクチンを受けた後に起こった出来事の詳細を集めるシステムが複数あります。望ましくない出来事がワクチンによっておこったものなのか(因果関係がある副反応なのか)、それともたまたまワクチンの後に起こった出来事なのか、専門家が定期的に評価をしています1,2)。
日本でも、接種後に予期せぬ有害事象・副反応疑いの症状が出た場合、予防接種法により医師等が報告をする義務があります2)。
報告された事象は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)や企業、報告医師の協力のもとで詳細な情報が収集・整理され、専門家の目により因果関係が評価された上でデータベース上に蓄積されます。
稀な副反応について、個々の事例を細かくみてもワクチンとの因果関係の評価は難しいため、このようにデータベースとして事例が蓄積されていくことで類似の事象がワクチン接種後に多く起きていないかを監視し続けています。
科学的にワクチン接種後の稀な副反応を確かめるためには、自然発生率(ワクチンを打っていない人でも同じ事象が起きる確率)との比較が重要になります。日本国内にはこの自然発生率との比較が行えるようなシステムはまだ構築されていませんが、米国ではVSD(Vaccine Safety Datalink)というシステムが構築されており、ここから得られた情報や他国の大規模な観察研究結果は常に世界に向けて発信されています。このように海外からの詳細な検討結果も総合してワクチンが承認された後の安全性について常に情報が更新されています。
ワクチンを接種した後に感染をすると重症になる、という現象のことをADE(抗体依存性増強現象)といいます。
ウイルスに感染したり、ワクチン接種の後に「中和作用のない余計な抗体」などができてしまうと、ウイルスが細胞に入りこむのをむしろ助けてしまい、症状を悪化させることがあります。これはデング熱のワクチンで起こりました1)。また、抗体や他のタンパク質、ウイルス等のかたまり(これを免疫複合体と言います)が気管支や肺で強い炎症を引き起こすこともあります(ワクチン関連増強呼吸器疾患 Vaccine-associated enhanced respiratory disease; VAERDといいます)。
ワクチン開発では、このADEやVAERDが起こらないように、高い中和作用がある抗体を作らせ、働くリンパ球のバランスをよくする(Th1細胞というリンパ球がよく働く)ような免疫を誘導するワクチンの開発が大切とされます。ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチンのいずれにおいても、「高い中和作用がある抗体」と「バランスの良いリンパ球の働き」が確認されています。また、動物実験でもADEは観察されていません2-3)し、第2/3相の臨床試験では、実際にADEを起こした被験者はいませんでした4-5)。さらに、世界中で打たれているワクチンになっていますが、ワクチン接種者で重症者が増えるという報告はありません。
こういったことから、新型コロナウイルスのワクチンにおいてADEが懸念されることは現状ではほぼ考えられないと言えます。
日本の研究グループから、ウイルスの感染後に誘導される一部の抗体(スパイクタンパク質のN末端領域の特定の箇所(NTD)に結合する抗体)が、ウイルスの感染を増強する活性を持つ可能性があることが報告されています6)。ただし、この実験は試験管内でのウイルス感染実験でのみ観察された現象であり、実際にヒトにウイルスが感染した場合に、特定の抗体によるウイルス感染の増強が起きるのかどうか、今後の研究で詳しく検証される必要があります。
また、ワクチン接種者では中和抗体が非常にたくさん生成されており、上記のような抗体による感染増強の効果よりも、ウイルスの感染を防ぐ中和抗体の効果が大きいと考えられます。
なにより、現在までにワクチン接種者でウイルス感染が増強され重症化しやすくなるという現象は報告されていないことから、現時点でワクチン接種者において抗体による感染増強ADEが生じる可能性は非常に低いと考えられます。
ヨーロッパなどで使用されているアストラゼネカ社や米国で使用されているジョンソンエンドジョンソン社のアデノウイルスベクターワクチンが、非常に稀(約25万回接種に1回)に血小板の減少を伴う特殊な血栓症(ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)を起こす可能性があることが報告されています1-4)。しかし、日本で既に承認されているファイザー社のmRNAワクチンや、モデルナ社のmRNAワクチンでは、このような血栓症との明らかな関連は認められていません。
アストラゼネカ社やジョンソンエンドジョンソン社のワクチン接種後に報告されている特殊な血栓症は、現在のところほとんどが60歳以下の女性で、ワクチン接種後2週間以内に起こるといわれています。なぜこのような血栓症が生じることがあるのか、まだ十分に解明されたわけではありませんが、以前から知られている「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」という病気に似ている仕組みがあると考えられています。ヘパリン起因性血小板減少症とは、ヘパリンという薬を使っている際に稀に起こる、血小板が減っているのに血栓ができる病気です。
アストラゼネカ社のワクチンは、日本では年齢などのリスクファクターを考慮し、2021年8月より原則40歳以上の方(ただし、他の新型コロナワクチンに含まれる成分に対してアレルギーがあり接種できない等、特に必要がある場合は18歳以上の方)は接種が可能となりました5)。
なお、経口避妊薬の使用そのものが血栓症のリスクとなりますが、使用中でもベクターワクチンに関連した血栓症のリスクが増えるわけではないと考えられるため、英国王立産婦人科医協会も米国CDCもベクターワクチンの接種前後で経口避妊薬の使用を控える必要はないとしています4-5)。
mRNAワクチン接種後の稀な副反応として、心筋炎という心臓の筋肉の炎症が起こることがあります1)。イスラエルの大規模な臨床研究では、10万人あたり2.13件で心筋炎が認められ、16〜29歳の男性では10万人あたり10.69件で最も頻度が高かったことが報告されています2)。日本のデータでも、1回目接種後よりも2回目接種後に多く、特に若い男性で心筋炎が疑われる事例の頻度が高いと報告されています2)。また、ファイザー・ビオンテック社製よりもモデルナ社製のワクチンの方が報告頻度が高いことが分かっています。例えば、日本の12-14 歳の男性において心筋炎が疑われた報告の頻度は、ファイザー・ビオンテック社製ワクチン(100万接種当たり26.1件)よりモデルナ社製ワクチン(100万接種当たり80件)の方が多い結果でした。また、15-19歳の男性では、100万接種当たりそれぞれ25.5件(ファイザー・ビオンテック社製)と98.7件(モデルナ社製)となっています。
厚生労働省は「いずれのワクチンも、新型コロナウイルス感染症により心筋炎や心膜炎を合併する確率は、ワクチン接種後に心筋炎や心膜炎を発症する確率と比較して高いこと等も踏まえ、現時点においては、接種によるベネフィットがリスクを上回って」いるとしています。ただし、上記の通り、ファイザー社のワクチンに比べ、モデルナ社のワクチン接種後の心筋炎・心膜炎が疑われる報告頻度が高いことから、10代及び20代の男性についてはファイザー社のワクチンも選択できることとする、としています3)。
新型コロナワクチンを接種した後の心筋炎は、多くが数日から1週間程度の入院治療が必要になります。しかし、全体の76%が軽症、22%が中等症と分類されており、ほとんどの症例で症状は回復することが知られています2)。特に若い男性においてコロナワクチン接種後、数日以内に胸の痛み・息苦しさ・動悸などが生じた場合は心筋炎の可能性も考え、医師にすぐ相談しましょう。
mRNAワクチンを接種した後に、腋(ワキ)の下や頸(クビ)のリンパ節が腫れることがあることがわかっています。大規模な臨床試験においては、ファイザー社のワクチンでは、約0.3%にリンパ節の腫れが報告されています1)。モデルナ社のワクチンの報告では、リンパ節の腫れは1.1%、ワキの下の痛みもしくは腫れは10.2%で起こっています2)。なお、リンパ節の腫大は約4週間以内におさまることがわかっています3)。
ワクチン接種後のリンパ節の腫れは、がんのリンパ節転移とまぎらわしい可能性があります。ブレスト・イメージング学会は、乳がん検診を予定されている方は、診療に遅れが出ないのであれば、検診を受けるタイミングを、1回目接種の前か、2回目接種から4-6週間後にすることを推奨しています4)。
がんの画像検索などをワクチン接種後に受けられる方は、必ず医師に受けたワクチンの日程について伝えて下さい。
新型コロナワクチンを接種することで、周囲の人に影響を与えることはありません。特に噂などでながれているような、月経不順や体調の不調などの悪い影響を与えてしまう可能性はありません。
まず、日本で使用されているファイザー社、モデルナ社のmRNAワクチンは、ワクチンを打つことで新型コロナウイルスに感染することは原理的にあり得ません。このため、ワクチン接種者の周囲に感染が拡がることも、もちろんありません。
また、ワクチンの成分である mRNAと、ワクチンを打つことで作られる新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は、投与された人の体の中で代謝され、人の吐く息などに漏れてくることはありません。このため、ワクチンを打っていない周囲の人に影響が出ることはありません。なお、新型コロナワクチンを接種することで、新型コロナウイルスに感染する可能性を下げることができます。
このため、周囲の人に感染を拡げることを防ぐ良い影響はあると考えられています。
花粉症や食物アレルギー、喘息やアトピー性皮膚炎などがある方でも接種可能です。ファイザー・ビオンテック社およびモデルナ社のmRNAワクチンの添付文書には、mRNAワクチンの成分によって重度の過敏症を起こしたことがある人は接種しないように注意されています1-3)。
重度の過敏症とはアナフィラキシーや、全身性の皮膚・粘膜症状、喘鳴、呼吸困難、頻脈、血圧低下等、アナフィラキシーを疑わせる複数の症状の既往とされています3)。
また、次のような方に接種する時には、注意が必要と書かれています。
どのような方であっても、ワクチン接種後には稀にアナフィラキシーが起こってしまう可能性があるので、ワクチンを接種した後は少なくとも 15 分間は病院の中で様子をみることが大切です。また、今回接種するワクチン以外のものに対して過去にアナフィラキシーなどの重いアレル ギー症状を引き起こしたことがある人は、接種後 30 分程度様子をみることになっています。
なお、米国CDCは他のワクチンや薬、食べ物、動物、ラテックス等のものに対する重いアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を起こしたことのある方も接種してもよいとしています4)。今回接種するワクチンの成分に対する重いアレルギー反応を起こしたことがある方が接種できないという点は同じです1)。
今回のワクチンのアナフィラキシーの原因として一番可能性が高いと考えられているのはポリエチレングリコール(PEG)という物質です。PEGにはたくさんの種類があり、大腸検査の下剤や薬剤、日用品等に幅広く使われています。米国CDCはPEGに対する即時型のアレルギーを起こしたことがある方も接種を控えたほうがよいと言っています。また、mRNAワクチンの1回目の接種直後にアナフィラキシーなどの重いアレルギー反応が出た方は2回目の接種を控えるよう推奨しています。
免疫機能が低下している方は新型コロナウイルスの感染で重症になるリスクが高いことが報告されています1)。そのため、 免疫機能が低下している方にはワクチンの接種が推奨されています2,3)。
mRNAワクチンは、原理的にワクチンを接種してもウイルスに感染することはありません。一般的に、免疫不全のある方に問題になるのは、生ワクチンと呼ばれる種類の、弱らせたウイルス等の病原体を含むワクチンです。免疫に問題のある方や、免疫を抑える薬を服用している方では、mRNAワクチンによって免疫がつきにくい可能性はありますが、mRNAワクチンが特に免疫不全の方に対して悪いことを起こす事は考えにくいとされています。接種する場合、しない場合それぞれの利点、心配な点をかかりつけ医と相談し、接種を検討して頂く必要があります4)。米国では免疫が中等度から重度落ちている方に関しては、免疫がつきにくいことと、重症化するリスクが高いことから、3回目の接種が2021年8月より開始されました3)。
米国CDCは、自己免疫疾患患者でもmRNAワクチンの接種は可能としています1)。米国リウマチ学会は、リウマチ性疾患や自己免疫・炎症性疾患の患者は、新型コロナウイルス感染症発症時の重症化リスクが高いため、基本的にワクチン接種を推奨しています2)。日本リウマチ学会は「SLEなどの全身性炎症性疾患ではCOVID-19重症化のリスクが高いとする報告もあります。リウマチ性疾患患者さんへのワクチン接種は検討するに値する」3)としています。
がんをもつ患者さんは、新型コロナウイルスに感染した場合、重症化するリスクが高いことが分かっているため、複数のがん関連の学会や団体が接種を推奨しています1-3)。
mRNAワクチンは生ワクチンとは違い、ウイルスに感染することは原理的にありえないため、基本的には不活化ワクチンと同様の扱いでよいと考えられます。効果という面では、抗がん剤の治療により免疫機能が低下している場合、中和抗体が作られにくいという研究報告があります4)。なお、米国では免疫が中等度から重度落ちている方に関しては、免疫がつきにくいことと、重症化するリスクが高いことから、3回目の「追加接種」、さらに5か月後以降のブースター接種をすることを推奨しています5)。また、接種をした後も感染対策を続けることが大切になります。
一般的に、がんの患者さんがワクチンを受けられなかったり、その有効性がはっきりしない場合、周りの家族がワクチンを接種して感染を防ぐことにより、重症化リスクの高いがんの患者さん(のみならず、高齢者や免疫抑制状態の方)を守る効果があるとされています。このような理由から、米国感染症学会(IDSA)は、免疫不全のある方の周囲の方々に対するワクチン接種を強く推奨しています6)。
参考になるサイト
米国CDCによると、新型コロナワクチンを含めて、これまでに開発されたワクチンで不妊の原因となったものは1つもありません1)。
これから妊娠を考えている方も新型コロナウイルスに対する mRNAワクチンを接種できます。米国CDC は、 mRNAワクチンは不妊とは関連がなく、mRNAワクチン接種の前に妊娠検査を行うことや、ワクチンのために妊娠を遅らせる必要はないと発表しています1)。実際にファイザー・ビオンテック社やモデルナ社のワクチンを接種した女性がその後、妊娠していることも報告されています。もし接種後に妊娠していたことがわかった場合も、ワクチン接種が妊娠に悪影響を及ぼすという報告はありません。さらに、⽇本産婦⼈科感染症学会は「不妊治療中でもワクチン接種は可能」という見解を出しています2)。
なお、新型コロナウイルスのワクチンと不妊に関する誤情報に関しては、次のような経緯を知っておくと理解しやすいです。ことの発端は、ファイザー社に以前勤めていたことのある研究者が、ワクチン接種で女性が不妊になる可能性があるのではないかと主張しインターネットで拡散されたことです。ワクチンによって体の中で作られるスパイクタンパク質(新型コロナウイルスの表面の突起物)に対する抗体が、胎盤にあるシンシチンー1という蛋白質にも反応してしまう可能性があるという主張でした。しかし実際にはこれらのタンパク質は全く似ていないため、ワクチンによってできる抗体が胎盤を攻撃することはないと考えられています3)。
また、動物実験においても、接種後のラットの妊娠経過や出産が正常で、生まれたラットの赤ちゃんも臓器や脳などに異常はなかったと確認されています4)。
日本産科婦人科学会も米国CDC も、妊娠中の mRNAワクチンの接種を時期を問わず推奨しています1, 2)。それは妊婦は同世代の妊娠していない女性と比べて、新型コロナウイルスに感染した場合に重症になりやすく、また早産や妊娠合併症、胎児への悪影響のリスクが上がるからです2,3,4,) 。
米国では、既に18万人以上の妊婦が新型コロナワクチンを接種しています5)。妊娠中に mRNAワクチン接種をした女性の大規模な追跡研究では、副反応の頻度などは同年代の妊娠していない女性と同程度であることがわかりました。また、その中で妊娠を完了した827人に対する調査の結果、胎児や出産への影響はなかったことが報告されています6)。また、米国の4万人以上の妊娠中にワクチンを受けた人を調べた調査では、早産や赤ちゃんの発育への悪影響(small for gestational age:在胎週数に相当する標準身長・体重に比べて、小さく生まれること)のリスクは上がらないことも報告されています7)。
妊娠中に mRNAワクチンを受けた方の臍帯血(胎児の血液と同じ)や母乳を調べた研究では、臍帯血にも母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体があることが確認されています。こうした抗体が、産後の新生児を感染から守る効果があることが期待されています8)。
なお、日本産科婦人科学会は妊婦が感染する場合の約8割は、夫やパートナーからの感染であるため、妊婦の夫またはパートナーにもワクチン接種を推奨しています1)。
授乳中の方も、新型コロナワクチンのmRNAワクチンを接種することができます1)。授乳中にmRNAワクチンを受けた方を調べた研究では、ワクチンによって母体で作られた新型コロナウイルスに対する抗体(IgAおよびIgG)が母乳にも含まれていることが確認されています。こうした抗体が、授乳中の子供を感染から守る効果があることが期待されています2-4)。
一方、ワクチンの成分であるmRNAが母乳に含まれることは稀で、赤ちゃんの健康への影響も心配はないとされています。mRNAワクチンを接種して4〜48時間経過した7名のお母さんの母乳を複数回調べた研究では、母乳にmRNAが検出されませんでした5)。別の研究では309検体中5検体(2%)の母乳からのみ、少量のmRNAが検出されました6)。もし母乳の中にmRNAが多少含まれていたとしても殆どが胃酸で分解されますし、また仮に吸収されても赤ちゃんに影響を与える可能性は低いと考えられています2,6)。
経口避妊薬を内服していてもコロナワクチンの接種ができます。
コロナワクチンで報告されている血栓はファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンではなく、ジョンソンエンドジョンソン社やアストラゼネカ社のベクターワクチンの接種に関連したものです(Q&A 4-9 をご参照ください)。
また、経口避妊薬そのものが、種類によっては血栓症のリスクとなりますが、ベクターワクチンで報告されている血栓症は血小板の低下を伴う特殊な血栓です。米国産婦人科学会は経口避妊薬がジョンソンエンドジョンソン社のコロナワクチンによる血栓症のリスクを上げることはないとしています1)。
新型コロナウイルスに既にかかった方にも、ワクチンの接種が推奨されます1)。
これは、症状がなくて気付かなかった場合(不顕性感染)や感染後の症状が長引いている場合も含みます。その理由は、再度感染する可能性があることと、自然に感染するよりもワクチン接種の方が新型コロナウイルスに対する血中の抗体の値が高くなることが分かっているからです2,3)。
なお、米国CDCは、感染したばかりの方については、感染から回復し、隔離の必要がなくなってからの接種を勧めており、対象者はワクチン接種前に感染を経験した人、もしくは mRNAワクチンの初回接種後かつ2回目の接種前に感染を経験した人となっています1)。また、新型コロナウイルス回復期血漿療法やモノクローナル抗体治療を受けた方は、90日以内の再感染のリスクは低いということから、90日経過してからの接種が勧められています。もし感染された方で、入院中にどのような治療を受けたかについてはわからない場合は、適宜治療を受けた病院の医師にご確認ください。
効果のある免疫を作るためには、2回の接種が必要です。ファイザー・ビオンテック社ワクチンの1回目接種後(2回目接種直前)のワクチンの発症予防としての効果は約50%でした1)。ファイザー・ビオンテック社ワクチンとアストラゼネカ社ワクチンの変異ウイルスに対しての発症予防効果を調べた研究によると、アルファに対しては約50%、デルタに対してはさらに下がり約30%でした2)。モデルナ社ワクチンに関しても同等と考えられ3,4)、1回のみの接種では予防効果が不十分です。
特に抗がん剤の治療を受けている方や、臓器移植後で免疫抑制剤などを使用されている方を含め合併症のある方では、1回の接種では十分な抗体ができない方がいることが報告されているので5)、免疫機能が低下している方では2回の接種を完了することが重要です。
一般的に、子どもの接種するワクチンは、2回のもの、3回のものとあります。いずれにしても、個々のワクチンによって、免疫系に、対象となる病原体との戦い方を十分に「覚えさせる」ために、必要な回数が決められています。
2つの異なるmRNAワクチンを使った場合の効果については、詳しくは分かっていません。米国CDCは、臨床試験のやり方に沿って同じワクチンを接種することを推奨しています1)。
一方、1回目にアストラゼネカ社のベクターワクチンを打った方に2回目にファイザー社ワクチンを接種した場合、2回ともアストラゼネカ社を接種した方に比べて高い免疫効果(抗体価)を得られることを示唆する研究が出てきており2)、1回目にアストラゼネカ社ワクチンを接種した方に対し2回目の接種を mRNAワクチンにより行うことを認める方針が複数の国で示されています3,4)。
ただし、発熱や頭痛などの副反応の頻度はこうした組み合わせ接種で若干増加することが報告されています4)。現状では日本においてはこうした組み合わせ接種は推奨されていませんが、今後アストラゼネカ社ワクチン接種者に対する mRNAワクチンの接種が検討される可能性はあります。なお、3回目の接種に関しては、初回接種時に用いたワクチンの種類にかかわらず、ファイザー社またはモデルナ社のワクチンのいずれかを使用することが可能です5)。
日本では20代以下の男性に関してはモデルナ社ワクチンの接種が、ファイザー社ワクチンと比べて心筋炎の発生率が若干高かったことから、1回目をモデルナ社ワクチンで接種しても、希望すれば2回目はファイザー社ワクチンを接種することができるようになりました6)。
mRNAワクチンは、従来の新型コロナウイルスに対しては高い感染予防効果が確認されましたが、効果は100%ではありませんし、時間経過とともに効果が低下していきます。また、2022年1月現在日本で流行しているオミクロンに対して、ワクチンの重症感染を予防する効果はある程度保たれているものの、発症予防効果はデルタに対する効果よりも低く、時間経過に伴う低下もより速いことが報告されています1)。感染しないためにはマスクや手洗い、三密回避などの基本的な感染予防対策は引き続き大切です。
抗がん剤の治療の方など、免疫の機能が低下している方の中には、十分な中和抗体を得られない方もいることが報告されているため2,3)、そうした方やそうした方と接する機会のある方は感染流行状況によっては特に感染予防策の継続が重要と考えられます。
現時点で日本国内では、原則としてmRNAワクチン接種の前後14日以内はインフルエンザワクチンを含む他のワクチンの接種をしないことになっています1)。一方、米国CDCは従来のワクチンの知見を踏まえ、他のワクチンとの時期にかかわらず接種可能としています2)。
日本においては、創傷時の破傷風トキソイド等、緊急性を要するものに関しては、例外として2週間を空けずに接種することが可能としております3)。
日本でも無料でコロナワクチンの接種が受けられます1)。
mRNAワクチンは、日本も含め全世界で筋肉注射で行われています。なお、筋肉注射と皮下注射の間で痛みの差はないという研究結果があります。また、特別に今回のワクチンで接種する時の痛みが強いということはありません。
特にありません。体がワクチンに反応して免疫を作る過程で熱が出たり、倦怠感が出たり体調を崩される方もいるので、無理をせず接種前後は余裕をもって過ごしましょう。
米国で2020年12月11日にファイザー・ビオンテック社のワクチンが承認された当初、1つのバイアル(ビン)に入っているワクチンの量は5回分とされていました。実際の接種が開始されてから、特別な「無駄なスペース(死腔といいます)の少ない注射器・針」を使うことで、5回ではなく6回分取れることが明らかになりました1)。しかし、米国でも、この死腔の少ない特別な注射器・針は、もともと供給量が少ないため、必ずしも現場で、1つのビンから6回分取れているわけではありません。日本の添付文書には「希釈後の液は6回接種分(1回0.3mL)を有する。死腔の少ない注射針又は注射筒を使用した場合、6回分を採取することができる。標準的な注射針及び注射筒等を使用した場合、6回目の接種分を採取できないことがある。1回0.3mLを採取できない場合、残量は廃棄すること。 」と記載されています2)。
ワクチン接種をした後に、発熱や関節痛などの症状が出て辛ければ、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)を使用してもかまいません。効果と安全性を検証する大規模な臨床試験においても、ワクチン接種後に副反応が出た方の一部は解熱鎮痛剤を内服しました。副反応がないうちから予防として解熱鎮痛剤を飲む必要はありません1)。一方で、持病のためにそうした薬を飲んでいる方は中止する必要はありません。
ワクチンを受けた日の入浴は特に問題ありません1)。入浴に限ったことではありませんが、高齢の方で倦怠感がとても強い場合などは、あまり無理をしない方が良いでしょう。
新型コロナウイルスのワクチンの効果を、接種前後のアルコールの量で比較した研究はありませんが、少量のアルコールは免疫に大きな影響を与えることはないと考えられます。ただし、お酒の飲み過ぎは免疫機能を低下させることが知られているので、避けた方が良いでしょう1,2)。また、接種当日の体調を整えるためにも、接種前日の深酒は避けた方が良いでしょう。
過度な運動ではなければ大丈夫です1)。接種した腕の痛みや倦怠感などの副反応が出た場合は無理をしないようにしましょう。
新型コロナワクチンの接種により、副反応による健康被害が生じた場合は、他のワクチン接種と同様、予防接種法に基づく救済(医療費、障害年金等の給付)を受けることができます。詳しくは、厚生労働省のサイトをご参照下さい。
2022年1月現在日本では、ファイザー・ビオンテック社ワクチンとモデルナ社のワクチン、いずれも12歳以上の方への接種が行われています1)。
ファイザー・ビオンテック社の mRNAワクチンに関しては、12〜15歳の約2,300名の小児が参加した臨床試験で、ワクチンを接種した群で0人、プラセボ群で16人の発症者が確認され、高い発症予防効果が確認されました(この研究内では100%の発症予防効果ということになります)。また、副反応についても、16歳以上での試験と同じくらいの頻度であることが報告されています2)。
この結果を受けてファイザー・ビオンテック社の mRNAワクチン は、2021年5月5日にカナダで、5月10日には米国で、日本でも6月1日から接種可能年齢が12歳以上となりました3)。モデルナ社の mRNAワクチンも、12~17歳の約3700名の小児が参加した臨床試験の結果、ワクチンの発症予防効果は93%という結果でした。モデルナ社についても海外で3700人以上を対象とした臨床試験が行われ4)、この結果を受けて7月19日に12歳以上で特例承認されました
日本では5歳~12歳の接種については2022年1月21日にファイザー・ビオンテック社製ワクチンが特例承認されました5)。詳しくは質問Q7-4、Q7-5をご覧ください。2022年1月現在、ファイザー・ビオンテック社の mRNAワクチンとモデルナ社の mRNAワクチンは、海外で生後6か月~4歳を対象とした臨床試験が行われています。
ファイザー・ビオンテック社の mRNAワクチンの臨床試験では、12歳から15歳の被験者において高い発症予防効果が認められました。モデルナ社のmRNAワクチンも、12歳から17歳の被験者においてワクチン効果は93%と成人同様の効果が認められました。こうした結果をふまえて、日本小児科学会は「12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種は意義があると考えています」と発信しています1)。
アメリカでの承認後の臨床研究では、ファイザー社のワクチンは12〜17歳の重症化予防に関しても効果があり、入院を予防する効果が94%、集中治療室入室を予防する効果が98%と報告されています2)。また、新型コロナウイルスに感染した小児では、まれにMIS-C(多系統炎症性症候群)と呼ばれる全身の臓器(心臓・肝臓・腎臓・脳など)の炎症が起こることが知られていますが、ワクチン接種は小児MIS-C(多系統炎症性症候群)に対しても91%の予防効果が報告されています3)。
副反応については、ファイザー・ビオンテック社のワクチンは、腕の痛み、疲労感、頭痛、筋肉痛、関節痛、寒気や発熱などが成人よりも少し高い頻度で報告されました4,5)。モデルナ社のワクチンでは、腕の痛み、疲労感、頭痛、筋肉痛、関節痛、寒気や発熱などが成人よりも高い頻度で報告されました6)。
米国CDCによるファイザー社のコロナワクチンを接種した小児における追跡調査も行われており、66,350名の16-17歳の接種者、62,709名の12歳-15歳の接種者において最も多い副反応は接種部位の痛み、疲労感、頭痛、そして筋肉痛でした7)。発熱は約30%の接種者に報告されました。殆どの副反応が軽度であり、重い副反応は稀でした。
成人同様、12歳以上の小児においても接種部位の疼痛・頭痛・発熱が辛い場合は解熱鎮痛剤を使用して構いません(製品毎に対象年齢などが異なりますので、対象をご確認のうえ、ご使用ください)。
10代から30代において、mRNAワクチンを接種した後に稀に「心筋炎」や「心外膜炎」の副反応が報告されています。1回目よりも2回目の接種後に多く、特に若い男性に多く起こることがわかってきています。ファイザー・ビオンテック社製ワクチンよりもモデルナ社製ワクチンの方が心筋炎が疑われる事例の頻度が高いことが報告されています8-10)。イスラエルの大規模な臨床研究では、10万人あたり2.13件で心筋炎が認められ、16〜29歳の男性では10万人あたり10.69件で最も頻度が高かったことが報告されています8)。
厚生労働省によると、日本では12〜14 歳の男性における心筋炎が疑われた報告頻度は、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社ではそれぞれ100万接種当たり26.1件と80件、15-19歳の男性では100万接種当たりそれぞれ25.5件と98.7件です8)。ファイザー・ビオンテック社製ワクチンに比べ、モデルナ社製ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎が疑われる報告頻度が高いことから、厚生労働省は、10代及び20代の男性については1回目にモデルナ社のワクチンを接種した人も、ファイザー・ビオンテック社製のワクチンも選択できることとする、としています8)。コロナワクチン接種後、数日以内に胸の痛み・息苦しさ・動悸などが生じた場合は心筋炎の可能性も考え、すぐに医療機関を受診しましょう。
2022年1月現在、オミクロン変異体の感染が拡大したことにより、小児の感染者が増えています。
小児における感染経路はほとんどが家庭内感染ですが、学校や幼稚園、保育所でのクラスターも起こっています。新型コロナワクチンを接種できない12歳未満のお子さんを守るためには、同居家族に加え、教師、保育士、医療者などの子どもたちと関わる周りの大人たちがワクチン接種を含む感染対策を徹底し、子どもへの感染を防ぐことが大切です。イギリスでワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染した人の接触者を調べた研究では、ワクチンを接種した人と接触した人への感染を予防する効果が認められています。ただし、この研究はデルタ変異ウイルスを対象としたものであり、その効果も時間が経過するごとに低くなることが報告されています1)。オミクロンに関してはまだ十分な結論が得られていませんが、ワクチンを接種している人が感染した場合の方が、ワクチンを接種していない人が感染した場合に比べて、同居している家族に感染させるリスクが低いことを示した報告があります2)。ただし、特にオミクロンではデルタに比べてワクチンの発症予防効果が低下しているため、基本的な感染予防対策を行うことが大切です3)。
5歳から11歳までのワクチン接種については、2021年1月21日に日本でも特例承認が行われました。詳しくは、Q7-4をご覧ください。生後6か月以上4歳以下の子どもについては、2022年1月現在、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社共に、臨床試験を行っている段階です。低年齢の子供へのワクチン接種の安全性や有効性が検証され次第、接種可能年齢が拡大されると期待されます。
こどもの感染では、発熱・咳などの軽い症状や無症状のことが多いものの、まれに重症化したり合併症を起こしたりすることがあります。また、新型コロナウイルスに感染した小児において、多系統炎症性症候群(MIS-C)という全身の臓器(心臓・肝臓・腎臓・脳など)に炎症がおこる合併症も報告されています。こうした合併症を防ぐため、5歳から11歳にもワクチンを接種することには意義があります。
米国やヨーロッパにおいて、5-11歳の小児に対するワクチンの有効性・安全性を調べる大規模な臨床試験が行われました。ファイザー・ビオンテック社製ワクチンについては、5-11歳は大人の3分の1量である10μgの2回接種しても、成人と同等に中和抗体が産生されることが確認されました1)。また、2268名が参加した第2/3相試験では、新型コロナウイルス感染症を発症した子どもは、ワクチン接種群で3例、プラセボ群で16例であり、約90%という高い発症予防効果が認められました1)。
5-11歳に対するファイザー・ビオンテック社製ワクチンの接種は安全性も高いことが分かっており、ワクチン接種後に大人と同じように腕の反応(痛みなど)や全身の反応(熱・だるさ)が起こることがありますが、16歳以上と比較すると頻度は低いことがわかっています。5歳から11歳の発熱の頻度は約7%で、大人の半分以下であることが報告されています1)。また、この臨床試験では心筋炎は一例も報告されませんでした。以上の結果を踏まえ、米国では10月29日に緊急使用許可がおりました2,3)。米国の承認後の追跡調査でも、5〜11歳では腕の痛みや、発熱や倦怠感などの副反応は、12-15歳よりも頻度が低いことが報告されています。具体的には、2回目接種後の局所反応(腕の痛みなど)は57.5%(12-15歳では62.4%)であり、全身性の副反応(発熱や倦怠感など)は40.9%(12-15歳では63.4%)でした。発熱や痛み等の副反応に対しては、年齢に応じて市販の鎮痛解熱剤が使用できます。まれに起こる重い副反応についても12歳以上より頻度が低く、2022年12月末の時点で5〜11歳での心筋炎(心臓の筋肉や周囲の膜に炎症が起こる病気)の頻度は、800万回接種のうち11件と報告されています4)。
日本でも、2022年1月21日に5歳から11歳に対するワクチンの有効性や安全性が確認できたため、特例承認がされました5)。日本小児科学会は、5歳から11歳のコロナワクチン接種について、「基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、COVID-19の重症化を防ぐことが期待されます」「5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考えています。健康な子どもへのワクチン接種には、メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です。」としています6)。
なお、ファイザー・ビオンテック社製ワクチンの投与スケジュールについては、5歳から11歳も大人と同じ「3週間間隔・2回接種」です。
高齢者にファイザー・ビオンテック社のワクチンを接種した後に起こる副反応として、最も頻度が高いものは接種部位の痛みで、6-7割の方に起こることが分かっています1)。その他に頻度の高い副反応として、倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛などがあります1,2)。これらは免疫が働いている間接的な証拠であり、数日以内で良くなることが分かっています。
こうした副反応は、若年者と比べて、年齢が高い方の方がやや起こりにくいことが報告されています1,2)。ワクチン接種後に発熱や倦怠感が強く出る方もいるため、無理をせず休めるようにしておくことが重要です。
日本で承認されたファイザー社・ビオンテック社のワクチンは、高齢者に対しても 9割以上の発症予防効果があることが、大規模な治験やイスラエルの実社会での臨床研究で報告されました1,2)。しかし、デルタやオミクロンなどの変異ウイルスの免疫逃避や、抗体の量が低下していくこともあり、ワクチンの発症予防効果が低下してきており、その程度は高齢者の方が大きいことが分かっています3,4)。またワクチン接種後に、重症感染を起こす危険因子として高齢(65歳以上)や免疫機能の低下があります5)。副反応については、接種部位の局所の副反応も、発熱や倦怠感、頭痛などの全身性の副反応も、若年者よりも高齢者の方が少し頻度が低いことが報告されています1,6)。
アストラゼネカ社のワクチン(バキスゼブリア筋注)には、チンパンジーの風邪の原因になる”チンパンジーアデノウイルス”を改変したウイルスが使われています。この改変チンパンジーアデノウイルス (ChAdOx-1) に、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図である遺伝情報を描き込んだDNAが乗せられています。
このように、ウイルスに特定の遺伝情報を運んでもらうようなワクチンを、ウイルス”ベクター”(”運び屋”という意味)ワクチンと呼びます。
本来、ウイルスはヒトの細胞に感染し、細胞内で自分自身を複製して増殖しますが、アストラゼネカ社のワクチンに使われるアデノウイルスベクターは、細胞内で自己複製できないように加工されていますので、接種者の体内でウイルスベクターが増殖することはありません。
ベクターワクチンを筋肉内に注射すると、注射した部位の周りの細胞にウイルスベクターが「感染」し、細胞内で新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が作られます。そのスパイクタンパク質を免疫細胞が認識して、スパイクタンパク質に対する抗体や免疫細胞がつくられます。
mRNAワクチンと比べると、アストラゼネカ社のベクターワクチンはウイルスを使ってヒトの細胞にコロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図を届けるという点が異なります。しかし、設計図を元に細胞にスパイクタンパク質を作らせることで免疫を誘導する、という仕組みはmRNAワクチンと似ています。
アストラゼネカ社のワクチンは、ブラジル、南アフリカ、英国で実施された臨床試験で、2回目接種から14日以降の発症予防効果は 62.1% であると報告されています1)。
アストラゼネカ社のワクチンの変異ウイルスに対する効果については、変異ウイルスの種類によって異なります。例えば、イギリスにおける研究では、アルファに対しては、ある程度の予防効果(70.4%)があることが報告されています2)。一方、ベータに対しては、軽症/中等症の新型コロナウイルス 感染症の発症を予防する効果は確認されませんでした3)。デルタに対しては1回接種の効果はやや低くなる(30%)ものの、2回接種を終えた場合の効果は大きくは下がっていない(67%)ことが報告されています4)。
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンを接種した後の副反応については、日本国内で行われた臨床試験でも調べられています1)。ほとんどの副反応は接種翌日からあらわれ、持続期間は数日以内です。接種後6日以内の主な有害事象として、注射部分の痛み、筋肉痛、倦怠感、疲労、頭痛、悪寒、発熱、などが挙げられます。これらの症状はいずれも重篤なものではなく、自然に回復することがわかっています。また、こうした副反応には解熱剤が有効です2)。
バキスゼブリア筋注 添付文書より抜粋
その他には、頻度は稀ですがアナフィラキシーや、以下の副反応の可能性が海外から報告されています3,4,5)。
(1)血小板減少を伴う特殊な血栓症(ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)
正確な頻度はまだ不明ですが、これまでに接種された人のデータからは、ワクチン接種後に血栓症が重症化する頻度は10万人あたり1人以下とされています3)。この特殊な血栓症は、ほとんどが60歳以下の女性に起こり、ワクチン接種後2週間以内に症状が出るといわれています。
このような血栓症が生じる原因はまだ明らかではありませんが、以前から知られている「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」という病気に似ている仕組みがあると考えられています。ヘパリン起因性血小板減少症とは、ヘパリンという薬を使っている際に稀に起こる病気で、血液の中にある、出血時に血を固まらせる血小板という血球が減ると同時に、血液の中に血栓ができるものです。
ワクチン接種後28日以内に、激しいまたは持続する頭痛、目の見えにくさ、息切れ、胸痛、けいれん、足の痛みやむくみ、接種部位以外のあざ(皮下出血)、持続する腹痛などの症状が出現した場合は、医師に相談し、医療機関への受診が必要です。
(2)ギランバレー症候群: 手足の力が入りにくいなどの運動障害、しびれなどの感覚障害、排尿・排便障害などの症状をきたします。
(3)血管漏出症候群: 手足のむくみ、血圧の低下などの症状をきたします。
接種後に上記の症状や、気になる症状を認めた場合は、かかりつけ医や医療機関に相談することが大切です。これら既知の低頻度の副反応に加えて、ウイルスベクターに特有の潜在的なリスクについても、今後も注意深く調査されます。
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンは原則として40才以上の方を対象に接種可能となっています1)。自治体にて指定された医療機関もしくは会場にて接種が可能となっています。
mRNAワクチンの2回接種が完了してから時間が経過すると、徐々に感染や発症を予防する効果が低下することが複数の研究から明らかになってきました1,2)。特に、もともとCOVID-19による入院や重症化、死亡のリスクが高く、ワクチンによる免疫が若年者と比較しても弱い高齢者においては、2回目接種完了から半年ほど経過すると、ワクチン効果の減弱による感染時のリスクが2回目接種の直後と比べて大きくなります。したがって、ワクチンによる感染・発症・重症化・死亡を予防する効果をより長期間維持するためにも、3回目接種のメリットは特にハイリスクの方で大きいと考えられています3)。
臨床試験の結果から、mRNAワクチンの3回目接種後の副反応の頻度やリスクは、2回目接種時と比べても大きな差がないことが判明しています1,2)。一方で、3回目接種後のワクチンの効果は、抗体価の上昇および感染予防効果の上昇から明らかです。例えば、60才以上を対象としたファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンの3回目接種の効果を調べたイスラエルの研究によると、3回目接種を終えた人は2回接種のみの人と比べて、3回目接種から12日後以降では、感染のリスクが11.3倍低くなり、重症化のリスクは19.5倍低くなることがわかっています3)。同様にイスラエルからの別の研究では、ファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンの3回目接種者は、2回接種者と比較した場合、入院・重症化・死亡を抑制する効果はそれぞれ93%、92%、81%と非常に高い効果があることが分かっています4)。つまり3回目の接種によって、2回目接種で得られた効果に加えて、さらに重症化や死亡を抑える効果が高まることが明らかになっています。
mRNAワクチンの3回目接種は、日本では初回接種が完了した18歳以上の方が追加接種の対象となっていますが、特に①重症なCOVID-19のリスクが高い高齢者や、免疫機能が低下した方や複数の基礎疾患がある方や、②介護従事者などの重症化リスクの高い方との接触が多い方、③医療従事者などの職業上の理由などによりウイルス暴露リスクが高い方、に接種が推奨されています5)。
日本でも2021年12月1日から、18歳以上の方に対する追加接種(3回目接種)が開始されています。接種間隔については、厚生労働省は2回目の接種完了から原則8か月としていますが、職種や年齢、時期によって短縮される予定です1)。具体的には、医療従事者や高齢者施設の入所者は6か月での接種が可能です。65歳以上の高齢者は、2022年1月までは8か月開けることとされていますが、2月以降は7か月、3月以降は6か月での接種が認められます。64歳以下の方は、2022年2月までは8か月開けることとされていますが、3月以降は7か月での接種が認められます。なお、自治体によってはこれよりも前倒しで接種を進めている場合があります。
2021年12月1日から、日本でも3回目のワクチン接種が行われています。日本では原則として、1回目および2回目に接種したワクチンの種類にかかわらず、3回目接種にはmRNAワクチンが使用されます。ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンがともに3回目接種の薬事承認を完了しています1,2)。モデルナ社ワクチンは3回目接種では1、2回目の半量の50μgが使用されます。
海外では既に交差接種が検討されており、米国では2回のmRNAワクチン接種が終わって最低6か月経過していれば、希望する18才以上の方は、初回および2回目の接種とは異なる種類の新型コロナワクチンの交差接種が可能になりました2,3,4)。交差接種の有効性に関しては、いずれのワクチンを使用しても、3回目接種によって血中の中和抗体価が大幅に上昇し、中和抗体価の上昇量は3回とも同じワクチンを接種するよりもむしろ交差接種の方が大きい傾向が観察されました5)。副反応など安全性の大きな懸念も確認されず、交差接種の安全性には問題はないと考えられています。
こびナビ 安川康介
大阪大学産業科学研究所 曽宮正晴
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 遠藤彰
こびナビ 岡田玲緒奈
こびナビ 内田舞
こびナビ 池田早希
こびナビ 木下喬弘
明石医療センター総合内科 河野圭
テキサス州立大学ヒューストン校 感染症科 兒子真之
ベイラー医科大学/Baylor St. Luke‘s Medical Center 感染症科 福田由梨子