二次利用について:当サイトに存在する、文章・画像・動画等の情報について、正確な情報を伝達する目的で、改変せず使用する場合に限り、二次利用いただけます。
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一般に、ワクチンの種類は大きく分けて、
などに分けられます。
ウイルスや細菌などの病原体を弱め、病気を起こさないようにしたものです。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じように免疫がつくことが期待できます。ワクチンの成分自体が「感染」をおこします。
感染する力をなくした(不活化という)病原体を用いるワクチンです。生ワクチンと違い感染しませんが、免疫の付き方は少し弱くなります。
病原体の部品である「タンパク質」を投与するものです。
これらのワクチンでは、ウイルスの部品にあたるタンパク質の設計図(遺伝情報)や、遺伝情報をのせた運び屋(ベクター)を投与します。その設計図をもとに、ヒトの体の中(細胞)でウイルスのタンパク質の一部がつくられ、さらに、ヒトが自ら作ったそのタンパク質に対する免疫がつきます。
*ベクター:ワクチンに必要な遺伝情報などをヒトの細胞に運ぶために、運搬役として使われる、ヒトに対して病原性のないウイルスなどのこと。(例:病原性のないアデノウイルス)
新型コロナウイルスワクチンには以下のものがあります
mRNAワクチン:ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチン
ベクターワクチン:オックスフォード・アストラゼネカ社ワクチン、ジョンソン・エンド・ジョンソン(ヤンセンファーマ社)ワクチン、ロシア・スプートニクVワクチン等
組換えタンパクワクチン:ノババックス社ワクチン
ワクチンの種類 ©こびナビ
新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、ファイザー・ビオンテック社製、モデルナ社製いずれも次の3つの成分からできています。
1. mRNA本体
2. mRNAを包む脂(脂質ナノ粒子):脂質やポリエチレングリコール(PEG)など。RNAを細胞内まで届ける役目をする
3. 塩類と糖類、緩衝剤
新しく開発されたワクチンというと、知らないものがたくさん入っているように思うかも知れませんが、実は大きく分けてこの3つの成分でできています。これらの成分は、どれもこれまでにヒトの体に投与した経験があるものです。
mRNAワクチンには免疫反応をより良く起こすための成分(アジュバント)や、水銀を含む保存剤は一切含まれていません。
また、主成分である核酸は、実際の細胞を使わずに工場内で合成(in vitro の合成という)されているため、細胞の成分等が混入することも原理的にあり得ません。
3. N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMra2035343
もともとヒトの細胞の中にはたくさんのmRNAがあり、これが私たちの遺伝情報がしまってある「核」の中には入ってこられないようにする仕組みがあります。なので、ワクチンを使ってmRNAを注射しても、基本的にヒトの遺伝子(染色体・DNA)がある細胞の核の中に入り込むことはできません。また、RNAをDNAに変換(逆転写という)したり、そのDNAを組み込んだりするための酵素(インテグラーゼという)もないため、ヒトの遺伝子(染色体)に変化を起こすことはありません1)。
遺伝子組換え技術とは、ある生物の遺伝子の一部を、他の生物の遺伝子に組み込むことで、新しい性質を与える技術のことです。上記の通り、今回のmRNAワクチンが遺伝子に組み込まれるということはなく、ワクチンを作用させることについて、遺伝子組換え技術というものではありません。
ワクチンの mRNA は細胞の中のタンパク質を合成する工場(リボソーム)で使われたあと、すぐに分解されてしまいます。さらに mRNA を元につくられたタンパク質も10日前後で分解されることがわかっています。このことから、mRNAワクチンの成分が体の中に長く残ることはないと考えられています。
これまでは数年以上かかっていたワクチンの開発が、今回は1年以内で行われたことに不安を覚える方も多くいると思いますが、今回のワクチンが開発から承認がこれほど早く進んだ理由はいくつもあります1-3)。
理由1)2002-2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年頃から地域的に流行する中東呼吸器症候群(MERS)の原因であるコロナウイルスのスパイクタンパク質は、今回の新型コロナウイルスにとてもよく似ています。このウイルスに関する研究が続けられていたため、今回のウイルスでも、どこをワクチンの標的にすれば良いのかすぐに分かりました。
理由2)遺伝子を調べる技術革新や、mRNAワクチンに関する長年の研究により、遺伝子配列がわかればすぐにワクチンを設計できる技術がありました。
理由3)いくつかの段階の動物実験や臨床試験を同時並行で行い、効率よく研究を進めることができました。
理由4)世界中で大きな流行になったことにより大規模な臨床試験の対象となる人がたくさん確保できました。
理由5)米国政府などから、ワクチン開発のために大量の資金が投入されました。
理由6)最終的な臨床試験を終える前から審査を始め、結果がでればすぐに承認する準備をしていました。
このように、様々な工夫がされていたことが、短期間で開発がされた理由です。
これだけ早く承認されたので、安全性の評価が甘いのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、mRNAワクチンの効果と安全性を評価する大規模な臨床試験(ファイザー・ビオンテック社は43,448人、モデルナ社は30,420人)は、従来のワクチンと比べても、規模が大きいものでした4,5)。また、FDAの承認審査はYouTubeで生配信されるなど、有効性や安全性の検証は透明性の高い方法で行われました。
日本で承認されたファイザー・ビオンテック社ワクチン(商品名「コミナティ」)の臨床試験1)と、モデルナ社ワクチンの臨床試験2)では、症状が出る新型コロナウイルスの感染症を抑える効果(発症予防効果)は、約95%ととても高いことがわかっています。これは、ワクチンを受けた人の5%が感染し症状が出てしまうということではなく、ワクチンを受けなかった人と比べて、発症する確率が95%減るということを意味します(図参照)。
ファイザー・ビオンテック社のワクチンを受けた約60万人と、受けていない約60万人を比べたイスラエルの大規模な研究でも、ワクチン接種により発症する人が94%も減り、重症化する人も92%減るという非常に高い有効性が報告されています3)。
ファイザー・ビオンテック社ワクチンの臨床試験では、重症化した人は、ワクチンを受けたグループでは1人であったのに対し、プラセボ(偽薬)のグループでは9人でした 1)。ワクチンのグループで重症化した人は、重症化といっても入院までは必要ない方でした2)。イスラエルで約60万人のワクチン接種者を解析した研究から、2回目の接種から7日以降では、COVID-19の重症化を92%防ぐ効果が確認されています3)。
モデルナ社の臨床試験では、プラセボのグループで重症化した人が30人いましたが、ワクチンを受けたグループで重症化した人は1人もおらず、ワクチンによって重症化することも防げたことが示されています4)。
ワクチンが、無症状の感染を減らすことが複数の研究で明らかになってきています1)。モデルナ社のワクチンの臨床試験では、1回目と2回目の接種前に一部の人にPCR検査を実施していて、2回目の接種の時に、無症状でPCRが陽性だった人がワクチン群の方が少なかった(ワクチン群14人 [0.1%] vs. プラセボ群38人 [0.3%])ことが分かっています2)。ファイザー・ビオンテック社ワクチンに関しては、イスラエルで約60万人のワクチン接種者を解析した研究から、2回目の接種から7日以降では、無症状の感染を90%防ぐ効果が示唆されています3)。さらに、米国CDCの研究から、ファイザー・ビオンテック社およびモデルナ社のmRNAワクチンの接種によって、2回目のワクチン接種から14日以降では、無症状感染を含む90%の感染を防ぐ効果が報告されています4)。
ワクチンを受けた人が感染してしまった場合、どれくらい他の人にうつす可能性が低くなるかについては、今調べられている段階です。無症状の感染自体を防ぐ効果がある可能性が高い以上、他人にうつす可能性も下がることも期待されていますが、ワクチンを受けた後でも、しばらくはみんなが協力してマスクや3密を避けるなどの基本的な感染予防行動を続けることが大切になります。
インフルエンザワクチンの有効性は年によって幅がありますが、大体40-60%程度で1)、新型コロナウイルスのmRNAワクチンはこれよりも高い有効性があると確認されています2,3)。
ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチンは、インフルエンザのワクチンと同じような臨床試験をして、安全性がきちんと確認されています。通常は数千人規模で安全性や効果を確認するところを、3-4万人とかなり大きな規模で研究が行われました。
ワクチンを受けた後どのくらいの期間、免疫が保たれるのかはまだはっきりとは分かっていません。モデルナ社ワクチンは、少なくとも6か月は十分な量の中和抗体が維持されることが分かっています1)。今回の新型コロナウイルスと似ているSARSに関しては、ほとんどの方で抗体が2年以上持続していたという報告もあります2)。また免疫は、中和抗体の量だけでなく、T細胞という免疫の細胞なども関与しているため、抗体が下がったから免疫がなくなってしまった、とも言えないことは注意が必要です。
変異ウイルスに対して、mRNAワクチンの効果があるのかどうかは今調べられているところです。mRNAワクチンを受けた人の血液にある抗体を調べたところ、変異をもつウイルス(特に南アフリカとブラジルで問題となっている変異ウイルス)を中和する力がやや低下していることが報告されています。しかし、効果が全くなくなるわけではなく、ある程度はワクチンによって発症を予防できるのではないかと考えられています1-3)。
もし今後、現在のワクチンが効かない変異が出現しても、mRNAワクチンであれば効果的なワクチンを迅速につくることが出来るといわれており、実際にファイザー・ビオンテック社とモデルナ社は南アフリカで見つかった変異に対応したワクチンの臨床試験を開始しています。
数万人規模の臨床試験と実地の投与後の検討から、mRNAワクチンは安全性の高いワクチンであることが分かっています。
米国の臨床試験では、以下(図参照)のような副反応が確認されています。これらの反応は免疫反応がしっかりと起こっていることを示す症状であり、2回目の接種のあとや比較的若い人に多く現れます。多くの場合、 接種して3日以内に症状が出て、1-2日以内に治まります。 つらいときは市販等の解熱剤/痛み止めを使用しても問題ありません。 もし熱が出ても必要に応じて休めるように計画しましょう。
これらの副反応以外に、アナフィラキシーと遅発性の皮膚での炎症が確認されています。
ワクチンではスパイクタンパク質というウイルスの一部分しか作られないので、ワクチンの成分によって新型コロナウイルスに感染することは原理的にありえません。
2021年2月14日に特例承認されたファイザー社ワクチン「コミナティ」の説明書によりますと、日本人160例(ワクチンを打った人:119人、偽薬(プラセボ)として生理食塩水を打った人:41人)を対象に調査が行われ、2回目の接種後の注射したところの痛みが出た人の割合は79%、疲労が60%、筋肉痛が16%、発熱が33%でした。ほとんどの方は症状に応じて解熱鎮痛剤などを飲み、日常生活には支障をきたしませんでした。
なお、海外での報告よりも発熱した人の割合が多いように見えますが、発熱の基準が、海外では38℃以上であったのに対し、日本国内では37.5℃であったことや、全体の試験の人数の規模が違うことなどが影響していると考えられます。
これらの症状は、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったときの症状と似ています。
第一に理解する必要があることとして、風邪をひいた時に出る熱は、一般にウイルス自体が引き起こすものではなく、免疫細胞が分泌する物質(サイトカインなどといいます)によって起こります。これは、平熱の37℃よりも、40℃近い温度の方が、ウイルスを排除するために免疫システムが働くのに有利だからと考えられます
このため、病原体がからだに侵入したあと、最初期に出会う免疫細胞から色々な物質が分泌されます(からだ全体に警報が発令されるようなイメージです)。これが、脳にある体温を調節する部分に働きかけて、からだの設定温度を平熱から、38-40℃に変更しなおします。これによって体温が上がって、免疫系が病原体と有利に戦うことができるようになります。
局所の副反応としての接種部位の痛みや腫れなどについても、免疫が活発に働いている状態(炎症がおきている)を示しています。
ですから、よく起こる副反応として知られているものは、ワクチンの本来の働き—免疫系に「練習試合をさせる」ことがきちんと起こっていることを示していると言えるでしょう。
ただし、これが起こらなかったからといってワクチンが効いていないということではありませんので、その点にはご注意いただければと思います。
一般的に、ワクチンの副反応(ワクチンにおける副作用のこと)はほとんどが接種をしてから6週間以内に起こります。長期的な副反応は、mRNAワクチンの働き方からは考えにくく、もし起こったとしても非常に稀だと考えられます。ワクチンの成分は接種後すぐに分解され、体の中に長くは残りません。長期的な副反応については、世界中で厳重な監視がされており、今後も評価が続けられます。
アナフィラキシーとは、皮膚・粘膜、肺、消化器、血管・心臓など、2つ以上の臓器にアレルギー症状が出ることです。例えば、じんましん、咳、息苦しさ、口や顔の腫れ、喉のイガイガ、吐き気、血圧の低下、などの症状があります。いろいろな薬や食べ物、虫刺され等でも、アレルギーやアナフィラキシーを起こす可能性があります。頻度としては、アメリカでは、ファイザー・ビオンテック社ワクチン100万回投与につき4.7回、モデルナ社ワクチン100万回投与につき2.5回と報告されています1)。これはインフルエンザのワクチンでのアナフィラキシーの頻度(100万人に1.4人)よりやや多いと言えますが、他の薬に比べて特別多いというわけではありません。例えば、抗菌薬(抗生剤)では、約5000人に1人(100万人に200人)アナフィラキシーが起きる事があります。
なお、日本ではmRNAワクチン接種後のアナフィラキシーの頻度が多いのではないかという報道がなされました。しかし、ワクチンの安全性評価に用いられるブライトン分類2)に基づいて評価し直すと半分以上は定義を満たさなかったこと、米国でも医療従事者は非医療従事者よりも頻度が多いとの報告もある3)ことから、日本で特別なことが起きているわけではないと考えられます。
アナフィラキシーが起きた場合は、アドレナリン(エピネフリン)という薬をすぐに筋肉注射するという確立した治療があります。アナフィラキシーは比較的若い人に多く、以前に別のものでアレルギーを起こしたことのある人が約8割でした。食べ物など、今回のワクチン以外のものにアナフィラキシーを起こしたことがある方は注意が必要で、接種後30分は接種会場で様子をみることが大切です4)。
アメリカにはワクチンを受けた後に起こった出来事の詳細を集めるシステムが複数あり、それがワクチンのせいによっておこったものなのか、それともたまたまそのタイミングで起こった出来事なのか、専門家が定期的に評価をしています1)。日本でも、接種後に予期せぬ有害事象・副反応疑いの症状が出た場合、予防接種法により医師等が報告をする義務があります2)。
ワクチンを接種した後に感染をすると、重症になりやすい現象のことをADE(抗体依存性増強現象)といいます。ウイルスに感染したり、ワクチン接種の後に「中和作用のない余計な抗体」ができてしまうと、ウイルスが人の細胞に入りこむのをむしろ助けてしまい、症状を悪化させることがあります。これはデング熱のワクチンで起こりました1)。また、抗体や他のタンパク質、ウイルス等のかたまり(これを免疫複合体と言います)が気管支や肺で強い炎症を引き起こすこともあります(ワクチン関連増強呼吸器疾患 Vaccine-associated enhanced respiratory disease;VAERDといいます)。
ワクチン開発では、このADEやVAERDが起こらないように、高い中和作用がある抗体を作らせ、働くリンパ球のバランスをよくする(Th1細胞というリンパ球がよく働く)ような免疫を誘導するワクチンの開発が大切とされます。ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチン、オックスフォード・アストラゼネカ社ワクチンの全てにおいて、「高い中和作用がある抗体」と「バランスの良いリンパ球の働き」が確認されています。また、動物実験でもADEは観察されていません2-3)し、第2/3相の臨床試験では、実際にADEを起こした被験者はいませんでした4-5)。こういったことから、新型コロナウイルスのワクチンにおいてADEが懸念されることは現状ではとても考えにくいと言えます。
ヨーロッパなどで使用されているアストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンが、非常に稀(約25万回接種に1回)に血小板の減少を伴う特殊な血栓症(ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症)を起こす可能性があることが報告されています1-3)。しかし、日本で既に承認されているファイザー社のmRNAワクチンや、これから承認されるモデルナ社のmRNAワクチンでは、このような血栓症との関連は認められていません。
アストラゼネカ社のワクチン接種後に報告されている特殊な血栓症は、現在のところほとんどが60歳以下の女性、ワクチン接種後2週間以内に起こるといわれています。なぜこのような血栓症が生じることがあるのか、まだ明らかではありませんが、以前から知られている「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」という病気に似ている仕組みがあると考えられています。ヘパリン起因性血小板減少症とは、ヘパリンという薬を使っている際に稀に起こる、血小板が減っているのに血栓ができる病気です。今後、更に原因が検討され、どのような方であれば安全に使用できるか、検討が進められる見込みです。
花粉症や食物アレルギー、喘息やアトピー性皮膚炎などがある方でも接種可能です。ファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンの添付文書には、
・mRNAワクチンの成分によってアナフィラキシーが起きたのが明らかな人
は接種しないように注意されています1, 2)。
また、次のような方に接種する時には、注意が必要と書かれています。
・いままでに他の予防接種で2日以内に熱が出たり、全身に発疹がでるなどのアレルギーを疑う症状があった人
・mRNAワクチンの成分に対して、アレルギーがでる可能性のある人(mRNAワクチンに含まれるPEG(ポリエチレングリコール)という成分に対して、アレルギーの疑いがある人は注意が必要です)
どのような方であっても、ワクチン接種後には稀にアナフィラキシーが起こってしまう可能性があるので、ワクチンを接種した後は少なくとも 15 分間は病院の中で様子をみることが大切です。また、今回の接種するワクチン以外のものに対して過去にアナフィラキシーなどの重いアレル ギー症状を引き起こしたことがある人は、接種後 30 分程度様子をみることになっています。
なお、米国CDCは他のワクチンや薬、食べ物、動物、ラテックス等のものに対する重いアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を起こしたことのある方も接種してもよいとしています3)。今回接種するワクチンの成分に対する重いアレルギー反応を起こしたことがある方が接種できないという点は同じです1)。
今回のワクチンのアナフィラキシーの原因として一番可能性が高いと考えられているのはポリエチレングリコール(PEG)という物質です。PEGにはたくさんの種類があり、大腸検査の下剤や薬剤、日用品等に幅広く使われています。米国CDCはPEGに対するアレルギーがある方も接種を控えたほうがよいと言っています。また、mRNAワクチンの1回目の接種直後にアナフィラキシーなどの重いアレルギー反応が出た方は2回目の接種を控えるよう推奨しています。(CDCによる2021年2月15日時点における推奨事項です)
免疫不全のある方やHIVに感染している方に対して、特別に臨床試験を行ったわけではないので、こういう方におけるワクチンの有効性や安全性は、まだ十分明らかになってはいません。しかし、HIV感染者であっても、病状が落ち着いている方はmRNAワクチンの臨床試験に参加しており、一定の安全性は確認されているといえます1)。また、これらの基礎疾患のある方については新型コロナウイルスの感染で重症になるリスクが高いということも大切な点です1)。
mRNAワクチンは、原理的にワクチンを接種してもウイルスに感染することはありません。一般的に、免疫不全のある方に問題になるのは、生ワクチンと呼ばれる種類の、弱らせたウイルスを含むワクチンです。免疫に問題のある方や、免疫を抑える薬を服用している方では、mRNAワクチンによって免疫がつきにくい可能性はありますが、mRNAワクチンが特に免疫不全の方で悪いことを起こす事は考えにくいとされています。接種する場合、しない場合それぞれの利点、心配な点をかかりつけ医と相談し、接種を検討して頂く必要があります2)。
米国CDCは、自己免疫疾患の方におけるワクチンの安全性・有効性のデータはないものの、自己免疫疾患患者でもmRNAワクチンの接種は可能としています1)。米国リウマチ学会は、リウマチ性疾患や自己免疫・炎症性疾患の患者は、新型コロナウイルス感染症発症時の重症化リスクが高いため、基本的にワクチン接種を推奨しています2)。
がんを持つ患者さんにおけるmRNAワクチンの有効性や安全性に関するデータは限定的ではありますが1,2)、生ワクチンとは違い、ウイルスに感染することは原理的にありえないため、基本的には不活化ワクチンと同様の扱いでよいと考えられます。効果という面では、抗がん剤の治療により免疫機能が低下している場合、ワクチンに対する免疫の反応が弱くなる可能性があります。つまり、効果が低くなるかも知れないということです。そのため、接種をした後も感染対策を続けることが特に大切になります。
一般的に、がんの患者さんがワクチンを受けられなかったり、その有効性がはっきりしない場合、周りの家族がワクチンを接種して感染を防ぐことにより、重症化リスクの高いがんの患者さん(のみならず、高齢者や免疫抑制状態の方)を守る効果があるとされています。mRNAワクチンにこのような効果があるかはまだ分かっていませんが、米国感染症学会(IDSA)は、免疫不全のある方の周囲の方々に対するワクチン接種を強く推奨しています2)。
米国CDCは、mRNAワクチン接種の前に妊娠検査を行うことや、ワクチンのために妊娠を遅らせる必要はないとしています1)。また、米国家庭医療学会は、mRNAワクチンは不妊とは関連がないとしています。
なお、不妊のリスクに関しては、次のような経緯を知っておくと理解しやすいです。ことの発端は、ファイザー社に以前勤めていたことのある研究者が、ワクチン接種で女性が不妊になる可能性があるのではないかと主張しインターネットで拡散されたことです。ワクチンによって体の中で作られるスパイクタンパク質(新型コロナウイルスの表面の突起物)に対する抗体が、胎盤にあるシンシチン―1という蛋白質にも反応してしまう可能性があるという主張でした。しかし実際にはこれらのタンパク質は全く似ていないため、ワクチンによってできる抗体が胎盤を攻撃することはないと考えられています。実際にファイザー・ビオンテック社やモデルナ社のワクチンを接種した女性がその後、妊娠していることも報告されています。
妊婦中の女性に対するmRNAワクチンの安全性や有効性は臨床試験ではまだ十分評価されていませんが、日本でも希望者は接種することが可能です1)。米国CDCは、妊婦で感染のリスクが高いグループに所属する方(医療従事者等)には接種の機会が与えられるべきだとしており、WHOも、リスクの高いグループに属する妊婦へのワクチン接種を考慮してよいとしています2,3)。これは、妊婦は同世代の妊娠していない女性と比べて、新型コロナウイルスに感染した場合に重症になりやすく、また早産等のリスクが上がることが主な理由です。接種を行う場合には、発熱等の副反応などについて主治医の先生とよく相談することが大切です。現在、妊娠中の女性を対象としての臨床試験が実施されています。
授乳中の女性に対する十分なデータはまだありませんが、米国CDCは医療従事者などの優先接種の対象(感染するリスクの高い人や、感染すると重症化するリスクの高い人)となる授乳中の女性は、mRNAワクチンの接種を考慮してよいとしています1)。mRNAワクチンの成分そのものは乳腺の組織や母乳に出てくるとは考えにくく、もし母乳の中に多少含まれていたとしても赤ちゃんに影響を与える可能性は低いと考えられています2)。
授乳中にファイザー社のワクチンを受けた方の母乳を調べた研究では、母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体(IgAおよびIgG)があることが確認されています。こうした抗体が、授乳中の子供を感染から守る効果があることが期待されています3)。
ファイザー・ビオンテック社ワクチンは16歳以上、モデルナ社ワクチンは18歳以上に対して臨床試験が行われました1,2)。米国等ではそれと同じ年齢で承認がされており3)、日本国内での承認も同様の年齢層が対象になりました。現在ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による12歳以上の小児を対象とした治験が開始されています4,5)。モデルナ社による、6ヶ月から12歳までを対象とした臨床試験も、3月下旬に開始されました。また、現時点で接種の対象とならない人たちを守るために、周りの人たちが接種するという考え方は、ワクチンの医療において大切なことです(コクーン効果といいます)。
新型コロナウイルスに既にかかった方にも、ワクチンの接種が推奨されます1)。これは、症状がなくて気付かなかった場合(無顕性感染)も含みます。その理由は、再度感染する可能性があることと、自然に感染するよりもワクチン接種の方が新型コロナウイルスに対する血中の抗体の値が高くなることが分かっているからです2,3)。
なお、米国CDCは、感染したばかりの方については、感染から回復し、隔離の必要がなくなってからの接種を勧めています1)。また、新型コロナウイルス回復期血漿療法やモノクローナル抗体治療を受けた方は、90日以内の再感染のリスクは低いということから、90日経過してからの接種が勧められています。もし感染された方で、入院中にどのような治療を受けたかについてはわからない場合は、適宜治療を受けた病院の医師にご確認ください。
ファイザー・ビオンテック社ワクチンの1回目接種後(2回目接種直前)のワクチンの発症予防としての効果は約50%でした1)。確実に効果のある免疫を作るためには、2回の接種が必要です。一般的に、子どもの接種するワクチンは、2回のもの、3回のものとあります。いずれにしても、個々のワクチンによって、免疫に対象となる病原体との戦い方を十分に「覚えさせる」ために、必要な回数が決められています。
2つの異なるmRNAワクチンを使った場合の効果については、今のところ検証されていません。米国CDCは、臨床試験のやり方に沿って同じワクチンを接種することを推奨しています1)。
mRNAワクチンについては、無症状の感染も防ぐ効果があることを示唆するデータが出てきています。しかし、ワクチンの接種によりどれくらい集団の中で感染の広がりが抑えられるかはまだ十分に明らかになっていません。米国CDCはワクチン接種後も公共の場所ではマスク、手洗い、ソーシャルディスタンシング等の基本的な感染予防策を続ける必要があるとしています1)。一方で、mRNAワクチンを2回打ってから2週間が経過した人は、十分な免疫がついたと判断され、いくつかの感染予防策を緩めることができると発表しています。例えば、ワクチンを打った人同士であれば、マスクを付けずに会ってもよいことになりました。また、ワクチンを打った人とまだ打っていない人であっても、「ワクチンを打っていない人が一世帯に所属するのであれば(同じ家に暮らしている人たちだけの場合)」、マスクの着用なしに会うことが可能と発表しています。このような感染予防策に関する推奨は、国ごとのワクチン接種率や感染流行状況などによって決定されると考えられます。また、ワクチンを打ってすぐにこういった感染予防策を緩めていいわけではなく、免疫がしっかりつくまでには時間がかかることには注意が必要です。
現時点では米国CDCは、他のワクチンとの同時接種での安全性やワクチンの有効性に関する十分なデータがないので、原則的にはmRNAワクチン接種の前後14日以内はインフルエンザを含めた他のワクチンの接種は控えることを推奨しています1)。しかし、もし誤って間隔を空けずに打ってしまっても、接種しなおす必要はありません。
mRNAワクチンは、日本も含めて全世界で筋肉注射で行われています。なお、筋肉注射と皮下注射の間で痛みの差はないという研究結果があります。また、特別に今回のワクチンが接種する時の痛みが強いというわけではないと考えられています。痛みはその時の雰囲気や、気分にも大きく左右されますので、「筋肉注射だから痛い」などと思い込まないことがとても大事です。
特にありません。体がワクチンに反応して免疫を作る過程で熱を出すなど体調を崩される方もいるので、接種前後は余裕をもって過ごしましょう。
米国で2020年12月11日にファイザー・ビオンテック社のワクチンが承認された当初、1つのバイアル(ビン)に入っているワクチンの量は5回分とされていました。実際の接種が開始されてから、特別な「無駄なスペース(死腔といいます)の少ない注射器・針」を使うことで、5回ではなく6回分取れることが明らかになりました1)。しかし、米国でも、この死腔の少ない特別な注射器・針は、もともと供給量が少ないため、必ずしも現場で、1つのビンから6回分取れているわけではありません。日本の添付文書には「希釈後の液は6回接種分(1回0.3mL)を有する。死腔の少ない注射針又は注射筒を使用した場合、6回分を採取することができる。標準的な注射針及び注射筒等を使用した場合、6回目の接種分を採取できないことがある。1回0.3mLを採取できない場合、残量は廃棄すること。 」と記載されています2)。
ワクチン接種した後に、発熱や関節痛などの症状が出て辛ければ、市販等の解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)を使用してもかまいません。ただし、接種前に予防として解熱鎮痛剤を飲むことは、現段階では、ワクチンによって作られる免疫に影響を与える可能性がないとは言い切れず、CDCは推奨していません。ただし、持病のためにそうした薬を飲んでいる方は中止する必要はありません。
新型コロナワクチンの接種により、副反応による健康被害が生じた場合は、他のワクチン接種と同様、予防接種法に基づく救済(医療費、障害年金等の給付)を受けることができます。詳しくは、厚生労働省のサイトをご参照下さい。
ワシントンホスピタルセンター内科 安川康介
こびナビ 池田早希
こびナビ 岡田玲緒奈
米国国立研究機関 峰宗太郎
Twitter @VaccineWatch
こびナビ 木下喬弘
明石医療センター 総合内科 河野圭
テキサス州立大学ヒューストン校 感染症科 兒子真之
ベイラー医科大学/Baylor St. Luke‘s Medical Center 感染症科 福田由梨子
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 遠藤彰
高齢者にファイザー社のワクチンを接種した後に起こる副反応として、最も頻度が高いものは接種部位の痛みで、6-7割の方に起こることが分かっています1)。その他に頻度の高い副反応として、倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛などがあります1,2)。これらは免疫が働いている間接的な証拠であり、数日以内で良くなることが分かっています。
こうした副反応は、若年者と比べて、年齢が高い方の方がやや起こりにくいことが報告されています1,3)。
日本で承認されたファイザー社のワクチンは、高齢者に対しても9割以上の発症予防効果があることが、大規模な治験やイスラエルの実社会での臨床研究でわかっています1,2)。
副反応については、接種部位の局所の副反応も、発熱や倦怠感、頭痛などの全身性の副反応も、若年者よりも高齢者の方が少し頻度が低いことが報告されています1,3)。