4-8 新型コロナウイルスワクチンを受けたあとに、新型コロナウイルスにかかるとかえって具合が悪くなるADE(抗体依存性増強現象)という現象が起こるかもしれないとききました。これは本当ですか?
2021/02/18
ワクチンを接種した後に感染をすると重症になる、という現象のことをADE(抗体依存性増強現象)といいます。
ウイルスに感染したり、ワクチン接種の後に「中和作用のない余計な抗体」などができてしまうと、ウイルスが細胞に入りこむのをむしろ助けてしまい、症状を悪化させることがあります。これはデング熱のワクチンで起こりました1)。また、抗体や他のタンパク質、ウイルス等のかたまり(これを免疫複合体と言います)が気管支や肺で強い炎症を引き起こすこともあります(ワクチン関連増強呼吸器疾患 Vaccine-associated enhanced respiratory disease; VAERDといいます)。
ワクチン開発では、このADEやVAERDが起こらないように、高い中和作用がある抗体を作らせ、働くリンパ球のバランスをよくする(Th1細胞というリンパ球がよく働く)ような免疫を誘導するワクチンの開発が大切とされます。ファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチンのいずれにおいても、「高い中和作用がある抗体」と「バランスの良いリンパ球の働き」が確認されています。また、動物実験でもADEは観察されていません2-3)し、第2/3相の臨床試験では、実際にADEを起こした被験者はいませんでした4-5)。さらに、世界中で打たれているワクチンになっていますが、ワクチン接種者で重症者が増えるという報告はありません。
こういったことから、新型コロナウイルスのワクチンにおいてADEが懸念されることは現状ではほぼ考えられないと言えます。
日本の研究グループから、ウイルスの感染後に誘導される一部の抗体(スパイクタンパク質のN末端領域の特定の箇所(NTD)に結合する抗体)が、ウイルスの感染を増強する活性を持つ可能性があることが報告されています6)。ただし、この実験は試験管内でのウイルス感染実験でのみ観察された現象であり、実際にヒトにウイルスが感染した場合に、特定の抗体によるウイルス感染の増強が起きるのかどうか、今後の研究で詳しく検証される必要があります。
また、ワクチン接種者では中和抗体が非常にたくさん生成されており、上記のような抗体による感染増強の効果よりも、ウイルスの感染を防ぐ中和抗体の効果が大きいと考えられます。
なにより、現在までにワクチン接種者でウイルス感染が増強され重症化しやすくなるという現象は報告されていないことから、現時点でワクチン接種者において抗体による感染増強ADEが生じる可能性は非常に低いと考えられます。
- N Engl J Med. 2018;379:327-40
- N Engl J Med. 2020;383:1544-1555
- Nature. 2021; 592: 283–289
- N Engl J Med. 2020;383:2603-2615
- N Engl J Med. 2021;384:403-416
- Cell. 2021;184:3452-3466.e18.